大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和56年(ワ)2201号 判決

主文

1  第二二〇一号事件被告山口は、同事件原告阪本に対して金三一万円及びこれに対する昭和五六年一〇月一〇日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  同事件原告阪本の同事件被告山口に対するその余の請求及び同事件被告永野に対する請求はいずれも棄却する。

3  第一五〇〇号事件被告両名は同事件原告永野に対して金一九八、〇二〇円及びこれに対する昭和五六年二月八日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、両事件とも被告山口の負担とする。

5  主文1及び3は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  第二二〇一号事件

1  被告山口は原告阪本に対して金五五万円及びこれに対する昭和五六年一〇月一〇日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告阪本は、被告永野に対し、昭和五六年二月七日午後一〇時三〇分に座間市相模台五〇番地先県道六号線上で発生した交通事故について何らの損害賠償債務を負担していないことを確認する。

3  右1につき仮執行の宣言

二  第一五〇〇号事件

1  被告阪本、同山口は各自原告永野に対し金一九八、〇二〇円及びこれに対する昭和五六年二月八日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告阪本、同山口の負担とする。

3  右1について仮執行の宣言

第二請求の原因

一  両事件に共通な事実

1  第二二〇一号事件被告、第一五〇〇号事件原告永野(以下「永野」という。)は、昭和五六年二月七日午後一〇時三〇分ごろ、座間市相模台五〇番地先県道六号線を、普通乗用自動車を運転して相模原方面へ向つて進行していた。

2  第二二〇一号事件原告、第一五〇〇号事件被告阪本(以下「阪本」という。)は、永野車の約一三乃至一八メートル後を、普通乗用自動車を運転して同方向へ進行していた。

3  両事件被告山口(以下「山口」という。)は、普通乗用自動車(相模五六る四四七八)を運転して永野車及び阪本車の進行方向左側の横道から、突然、高速度で飛出して、自車後部右側を永野車前部左側に衝突させた。

4  永野車は、その衝撃で、横向きになつて横すべりしながら阪本車に接近したため、阪本車は進路を閉ざされ、永野車後部右側面に衝突した。

二  第二二〇一号事件

1  阪本は、本件事故により、胸部打撲、頸部捻挫、左大腿打撲、左下腿打撲の傷害を負い、昭和五六年二月七日から同年三月二九日まで入院して加療し、更に、同年四月二四日まで通院して加療した。

2  本件事故は、山口が、横道から県道へ出るに際し、一時停止して左右の安全を確認すべきであるのにこれを怠つた過失により惹起されたものである。

3  本件事故により阪本が受けた損害は次のとおりである。

(一) 治療費 金九四六、五四〇円

(二) 入通院慰藉料 金五〇万円

(三) 車両修理代(一部) 金三一万円

(四) 逸失利益 金二四万円

原告は、神奈川大学第二部に在学しており、昭和五六年二月一〇日から株式会社産和企業に一日三〇〇〇円の給与で就業することになつていたが、本件事故により少くとも実働日数八〇日について就業の機会を失つた。

仮に右主張が認められないとしても、阪本は事故当時一九歳で、その平均給与額は、一箇月金一一七、二〇〇円であるから、原告の逸失利益が一日三〇〇〇円を下ることはない。

(五) 以上合計金一、九九六、五四〇円に対して、自賠責保険から金一、一九一、〇二〇円の支払を受けたから残金は八〇五、五二〇円になる。

4  永野は、阪本に対して、自車の修理代金の支払を請求しているが、阪本には本件事故につき何らの過失がないのでその支払義務はない。

5  よつて、阪本は山口に対して本件不法行為による損害賠償金のうち金五五万円及びこれに対する本件交通事故の後の日である昭和五六年一〇月一〇日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、かつ、永野に対して本件事故につき何等の損害賠償債務を負担していないことの確認を求める。

三  第一五〇〇号事件

1  永野は、本件事故により車両修理代金として金一九八、〇二〇円を支払い、右同額の損害を受けた。

2  本件事故は、山口、阪本両名の過失によつて惹起したものである。

(一) 山口には、狭隘な道路から出る時は徐行乃至一時停止する義務があるのにこれを怠り、突然高速度で県道に飛出した過失がある。

(二) 阪本には、先行車に追従する場合には十分な車間距離をとり、かつ、常に前方を注視して運行する義務があるのにこれを怠つた過失がある。

3  よつて、永野は、山口、阪本両名に対し、不法行為に基く損害の賠償として金一九八、〇二〇円及びこれに対する不法行為の日の後の日である昭和五六年二月八日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求の趣旨及び原因に対する答弁並びに抗弁

一  第二二〇一号事件

1  山口の答弁

(一) 請求棄却の判決を求める。

(二) 請求原因事実一については、2のうち、阪本車と永野車の距離が約一八メートルであつたこと、3のうち、山口車が突然高速度で飛出したこと、4のうち、永野車が横向きになつて横すべりしながら阪本車に接近したことはいずれも否認し、その余は認める。

(三) 請求原因事実二のうち1及び3は不知(但し、3(五)の支払があつたことは認める。)、同2は争う。本件事故による阪本の損害は、阪本車が適切な車間距離を保持せず、速度超過走行をしたため永野車に追突したことによるものであり、山口に責任はない。

2  永野の答弁並びに抗弁

(一) 請求棄却の判決を求める。

(二) 請求の原因一の事実は認める。

(三) 抗弁

請求の原因三記載のとおり

二  第一五〇〇号事件

1  阪本の答弁

(一) 請求棄却の判決を求める。

(二) 請求原因事実一は認める。同三1は知らない。同三2(二)は争う。

2  山口の答弁及び抗弁

(一) 請求棄却の判決を求める。

(二) 請求の原因一についての認否は前記一1(二)記載のとおり。同三1は知らない。同三2(一)は争う。

(三) 抗弁

山口は永野に対して、次の金員を支払つた。

(一) 自動車修理代金 金四三一、一六〇円

(二) 自動車レツカー料金 金一五、〇〇〇円

理由

第一第二二〇一号事件について。

一  山口に対する請求

1  請求原因事実一

(一) 1は、当事者間に争いがない。

(二) 2のうち、阪本車と永野車との距離は、成立に争いがない乙第一号証の六及び阪本本人の供述により一三メートルであつたと認められる。その余の事実は、当事者間に争いがない。

(三) 3のうち、山口車が、永野車及び阪本車の進行方向左側の横道から、一時停止をせずに時速三五キロメートルで突然飛出したことは、成立に争いがない乙第一号証の四、五、一一及び前掲乙第一号証の六、並びに山口本人の供述によつて認められる。その余の事実は、当事者間に争いがない。

(四) 4のうち、永野車が横向きになつて、横すべりしながら阪本車に接近したとの点については、これを認めるに足る証拠はなく、その余の事実は、当事者間に争いがない。

2  請求原因事実二

(一) 成立に争いがない甲第一号証及び阪本本人の供述によれば、請求原因事実二1の事実が認められる。

(二) 前記理由第一の一1に認定した事実によれば、(永野車横すべりの事実が認められなくても)本件事故が、請求原因事実二2に記載されたような山口の過失により惹起されたものであり、阪本車の永野車に対する追突についても、山口に責任があるといえる。

(三) 治療費及び慰藉料については、山口本人の供述及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第五号証によれば、合計金一、一九一、〇二〇円であると推認することが出来る。

(四) 車両修理代については、阪本本人尋問の結果及び右供述により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、二、同第四号証によれば、合計金三一〇、六七〇円を要したと認められるので、このうち金三一万円の支払を求める阪本の請求は理由がある。

(五) 逸失利益については、阪本本人の供述によつても就職予定先及び日給額がその主張と著るしく異なり、また、未だ就職申込に行く段階に過ぎなかつたと認められるので、その請求は認められない。また、阪本が当時学生であつたことは、同人の自認するところであるから、当然にアルバイト収入があつたものとして平均賃金と同額を請求することはできない。

(六) 自賠責保険からの支払額が金一、一九一、〇二〇円であることは、当事者間に争いがない。

3  よつて、阪本の損害額合計金一、五〇一、〇二〇円から右(六)の金額を控除した金三一万円について山口に支払義務がある。

二  永野に対する請求

後記第二の一に判断するとおり。

第二第一五〇〇号事件

一  阪本に対する請求

1  請求原因事実一は、当事者間に争いがない。

2  原本の存在及び成立に争いがない丙第一号証並びに永野本人尋問の結果によれば、請求の原因三1の事実が認められる。

3  本件事故が、山口の過失により惹起したものであることは既に認定したとおりであるが、阪本も永野車との車間距離を一三メートルしかとらなかつた点に矢張り過失があるというべきである。

二  山口に対する請求

1  請求原因事実一については、既に第一の一1において認定したとおりである。

2  同三1については右一2に認定したとおりである。

3  山口の過失については第一の一2(二)において既に認定したとおりである。

4  山口及び永野本人の各供述によれば、山口が支払つた金四三一、一六〇円の修理代金は、永野車前部についてのものであり、後部の修理代金については未払であると認められるので、この点に関する山口の抗弁は理由がない。(レツカー料金は、丙第一号証の納品書には含まれていない。)

第三結論

一  阪本の山口に対する本訴請求は、金三一万円及びこれに対する本件交通事故の日の後の日である昭和五六年一〇月一〇日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。

二  永野が阪本及び山口に対して金一九八、〇二〇円及びこれに対する本件交通事故の日の後の日である昭和五六年二月八日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由がある。

三  阪本の永野に対する請求は棄却する。

四  訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条の各規定を、仮執行の宣言について同法第一九六条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三井哲夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例